遥かなる わがヨークシャー (Faraway My Yorkshire)

リーズ (Leeds)

2 タウン・ホール (the Town Hall)

 リーズ市には、市の象徴となる建物が二つある。
 一つは、市の中心部のヘッドロウと呼ばれる大通りに面したヴィクトリア広場に立つ、コンサート・ホールの「ザ・タウン・ホールである。
 その正面玄関の両側には、大きな石のライオンが2頭ずつ、守護獣のようにうずくまって控えている。コリント式円柱がならぶホールの上には、ドーム(丸屋根)を頂いた時計台のある巨大な塔がそびえている。その高さは、じつに68mもある。
 タウン・ホールは、ゴシック様式とバロック様式が融合したような、重厚で威厳のある姿をしており、ヴィクトリア朝建築の傑作の一つと称賛されている。
 わたしが滞在していたころは、タウン・ホールの表面は真っ黒に煤けていた。しかしその後、表面が洗浄されてきれいになり、いまでは本来の黄色みを帯びた灰色をとり戻しているとのことである。
 タウン・ホールを設計したのは、ハル出身の建築家カスバート・ブロドゥリックである。彼の設計は、1853年におこなわれたコンテストで選ばれたもので、このとき審査にあたったのは、チャールズ・バリーであった。
 バリーは、1836年にロンドンの新しい国会議事堂を設計し、その後その功績でナイト爵に叙せられた建築家である。復古調ゴシック建築の、巨匠のひとりとされている。
 タウン・ホールが完成したのは1858年のことで、ヴィクトリア女王を招いて盛大な落成式がおこなわれたという。

 もう一つのリーズ市を象徴する建物は、タウン・ホールの北、すこし離れたところに立っているシヴィック・ホールである。E.ヴィンセント・ハリスの設計で大恐慌時代(1929-33)に建てられたもので、リーズ市の本庁舎になっている。
 シビック・ホールには、タウン・ホールとは対照的に、新古典主義的な、繊細で優雅な雰囲気がある。正面の両はしには、ウサギの耳のようにピンとたった二つの塔がある。それらの先端には、市の象徴で市の紋章の楯持ちにもなっている黄金のフクロウが止まっている。
 シヴィック・ホールには、ポートランド・ストーンという白い石が使われている。そのためタウン・ホールとは対照的に、真っ白にかがやいていた。
 この建物を「高そうなウェディング・ケーキ」と評した人がいるというが、同感である。
 1933年の落成式は、ジョージ5世を招いておこなわれたという。
 わたしの好みはタウン・ホールで、クラッシック音楽の演奏会を聴きに、何度も訪れたものだった。


シヴィック・ホール(The Civic Hall) <new work for this site>

There are two symbolick buildings in Leeds.
One of them is the Town Hall standing at Victoria Square on Headrow. Four stone lions are at rest in front of it as gaurdians, and the unbelievable huge clock tower, 223 feet high, is soaring on the hall.
The Town Hall was designed by Cuthbert Brodrick, an architect from Hull, and his design was chosen by Sir Charles Barry at the competition in 1853.
The Town Hall, opened by Queen Victoria in 1858, was black when I was there, but it has been cleaned, I understand that it now appears an attractive light brown. Being very stately and dignified, it deserves to be praised as one of the masterpices of Victorian buildings.
The other one is the Civic Hall which was built during the Depression. It was designed by E. Vincent Harris in the neo-clasical style and has two towers in the both sides of the front, which look like ears of a hare. The towers are surmounted by two gilded owls which are supporters of the city's coat of arms.
The Civic Hall was constructed with Portland stone. I think it is still shining white. I heard that someone said "it looks like an expensive wedding cake!" I quite agree with him. It was opened by Geoge V in 1933.
I prefer the Town Hall, where I visited to listen to classical music several times.


*ゴシック様式(Gothic)  中世のフランスで生まれた芸術様式。建築の分野では、教会の建築様式として流行し、先の尖ったアーチ、垂直性を強調した空間と装飾が特徴。イギリスで最初に用いられたのは1175年で、前年に焼失したカンタベリー大聖堂の再建のとき。ノルマン様式にとって代わって普及したのは13世紀になってからのこと。19世紀にこの様式が復活し、カントリー・ハウスや公共施設の建築様式として流行した。この時代を代表する建築家に、チャールズ・バリー(1795-1860)、ジョージ・ギルバート・スコット(1811-78)、アルフレッド・ウォーターハウス(1830-1905)がいる。

*バロック様式(Baroque)  17世紀にヨーロッパに広まった芸術様式。建築の分野では、ルネッサンス期の合理的で明快、簡潔な古典様式に対して、動的で力強く、さらに流動的で華麗な装飾を重視するようになった。イギリスにはロンドンのセント・ポール大聖堂を再建した建築家クリストファー・レンによってもたらされ、17世紀後半から18世紀前半にかけて流行した。ジョン・ヴァンブルーはこの分野の代表的な建築家。彼のあとにつづいた建築家にジェイムズ・ギッブスがいるが、ヴァンブルーの死後、バロック様式はパラーディオ様式にとって代わられ、急速にすたれていった。

*新古典主義様式(neo-classical style)  18世紀後半、イギリスで流行した建築様式の一つ。やや重くなる傾向があるパラーディオ様式に、ギリシャ風の装飾によって軽快で繊細な優雅さをあたえようとした様式。中心となった建築家に、ウィリアム・チェンバースとロバート・アダムがいる。とくに後者は、建物の外観よりも内装の設計に力を入れ、彼の作り上げたスタイルは、その後のイギリスの室内装飾を一変させる、決定的な影響をあたえた。


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