遥かなる わがヨークシャー (Faraway My Yorkshire)

リーズ (Leeds)

7 ノース・リグトンからの眺め (The View from North Rigton)

 ノース・リグトンは、リーズの中心部から北へ15kmほど行ったところの、畑の真ん中にある。
 ここに登ると、360度ヨークシャーが見渡せる。英語でローリング・ヒルズ(rolling hills)と表現される、ゆるやかにうねる丘は、どこまでもつづいている。そしてヘッジロウ(生け垣)やドライ・ストーン・ウォールという石積みで区切られた畑や草地、羊の放牧地などが、パッチ・ワークのようにつづいている。
 南にはウォーフ川が流れ、そこに、ハロゲイトからリーズへとつづく鉄道のヴァイアダクト(石造りの高架橋)がかかっている。そのアーチが、リズミカルにつらなる。線路が消えゆく先には、リーズの街がかすんでいた。
 東は古都ヨークのある方角だったが、かすんでいてよく見えなかった。北にはハロゲイトの街があり、西にはペナイン山脈が南から北へとつづいていた。
 わたしがイギリスの田園の美しさに気がついたのは、このノース・リグトンからの眺めを目にしたときからだった。そしてそのときからその(とりこ)となり、週末ごとの、ヨークシャーの田園地帯めぐりがはじまることになった。
 イギリス人は田園の風景を見て、よく「ピクチャレスク(picturesque)」――絵のように美しい――という言葉で形容する。まさにイギリスの田園風景はピクチャレスクである。イギリスの美しさは田舎にある、と言っても言い過ぎではないだろう。
 イギリスの風景式庭園は、17世紀イタリアのクロード・ロランやニコラ・プーサンらの古典的風景画にあるような、崇高なまでに美しい、理想的な風景を再現するところからはじまった。
 だがイギリスには、それに通じるものがすでに身近にあった。イギリスの田園風景からヘッジロウやドライ・ストーン・ウォールをとり除けば、それはもう風景式庭園そのものになるのである。
 もっとも、たとえヘッジロウやドライ・ストーン・ウォールがあったとしても、それはそれで十分に美しい。未開の大自然ではなく、人間の生活と深くむすびついた自然の美しさであり、なつかしさが感じられる美しさである。


About 9 miles to the north from the centre of Leeds, North Rigton rock stands in the meadows. Climbing to the top of it, I could see Yorkshire in every direction. Rolling hils streched out for miles as far as I could see. Hedgerows and dry stone walls extended there, making green patchworks of meadows and fields.
On the south, the River Wharfe flows between green meadows. And there was a railway viaduct running from Harrogate to Leeds across the river. And the arches of the viaduct ranged rhythmically. In the distance beyond them, the town of Leeds was in the haziness.
The east was the direction of the old city York, though I could not see it well. On the west, the Pennines streched from south to north.
It was when I saw the sceneries from North Rigotn that I found the beauty of the countryside in England, and my almost every weekend driving to the countryside of Yorkshire started from here.
English people often use the word "picturesque"when they express the beauty of landscapes of countryside. It is not too much to say that one of the most beautiful things of England is this very countryside.
The "English garden", which were born in the 18th century to reproduce the landscape of pictures painted by Claude Lorraine or Nicolas Pousssin, meant the gardens like landscapes. There exist such landscapes everywhere. Just imagine the landscapes around you of no hedgerows or dry stone walls, all the landscapes turn to be very "English gardens".
Even though there are hedgrows or dry stone walls, the landscapes are beautiful enough, of course.


ノース・リグトンからの眺め、II (The View from North Rigton, II)
<New work for this site>


*ドライ・ストーン・ウォール (dry stone wall)  農耕地や羊の放牧地の境界線を示す石積み。割り石を1m数十cmの高さに積んで造った石壁で、漆喰などで固めていないので「ドライ」と呼ばれる。18世紀後半、第2次囲い込み運動がさかんになった時代に、土地の境界線を明確にするために、延々とつくられていった。


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